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~ウメボシ珍道中~
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長いので休憩しもって読んでください。
ちなみに「キョウ」というのはオルゴールでの「響」の呼び名です。


orgel響…Part2







ここにもない…私の大切な音…

世界を救うたった1つの音

何処に落として来たんだろう…

何処に…








ここはオルゴールに囲まれた忘却の部屋。
個々のオルゴールに記憶という音を捧げ、時に賜ったりしている…

「誰かが迷い込んだみたいだけど?」
「お客でしょ?」

いつものように紅茶を冷ましながら奥にいるリアと何気ない会話をする。
目の前にはみぞおちまであるカウンター。
昨日2ヶ月ぶりに帰ってきたアークさんのお土産オレンジパウンドケーキがそのカウンターにスライスして置いてある。賞味期限はギリギリ今日までだ。

「あ、美味しい…」
甘酸っぱいオレンジピールがパウンドの甘さを適度に抑えてくれる。
「ちょっと!キョウずるい!私もご主人様のケーキが食べたい~」
「そんなに欲しいなら出てくればいいじゃないか」
「出られないのを知ってるくせに!」
「分かった。じゃあオレの記憶を返してくれるなら持っていってやるよ」
「何よ意地悪!もういいわ。あなたごと氷漬けにしてご主人様が戻ってくるの待つからっ」
「じょ、冗談!あげるあげる!オレ一人でこんなに食べられないしっ」

慌てて紅茶の受け皿にケーキを2枚乗せ、壊れたオルゴールの山を掻き分けその奥にあるリア専用の小さなドアへと持っていく。リアの場合脅しというより殆ど警告のようなもの。ここで持っていかなければ間違いなく氷付けにされる。
「(少し冗談が過ぎたかな…)」

コンコン☆
「持ってきた~…」

バァアアアアン!!!
「え!?」

勢いよく開いたのはその小さいドアではなく店の入り口の白い扉。
オレは咄嗟に振り返ったがそれよりも早く何かに押さえつけられ身動きがとれなくなっていた。しかもオレ自身の視界が完全に封じられ真っ暗な闇の中にいるせいで、この部屋が今どういう状況なのか全く見当がつかない。

「ちょっっとぉおおお!ご主人様のパウンドケーキぃ~~~~!!!酷っ!!」
どうやらオレの持っていたパウンドケーキは酷く転がったらしい。
「(オレよりパウンドケーキの心配……涙)」
「許さない!八つ裂きにしてやるわ!!!」
「落ち着けよ!後でオレの分あげるから!」
「当然でしょ!!でも落とした2枚の代償は大きいわよ!!覚悟なさい!」
「ちょ!まず状況を説明してよ!オレ今何も見えな…」

ドォオオオオオン!!

ひぃいいいいい!
何も見えない分、音の大きさでオルゴールの安否が激しく心配になる。
「ゲホッ!ゲフッ!」
押さえつけられていた力が緩み身体が自由に動くようになった。
呼吸をするたびに刺さる空気はまるで北極にいるのと同じ。
辺り一面にヒンヤリとした空気が広がり白い水蒸気が部屋を埋め尽くしていた。
氷魔法を使ったのか…オ、オルゴール!……は無事っぽいな。
あまりに激しい爆音だったから大事なオルゴールが木っ端みじんになったかと思った。
ホッとしながらオレはその白煙の中に微かに見える物体へと目をやる。

…?…黒い…妖怪?
影の塊のようなモヤモヤした生き物。
全長2m~3mはあるだろうか?一般の人なら普通に入れる扉を少し窮屈そうに入ってくる。身体の半分が入ったところでモヤモヤから出た手のようなものが形を変えながら何かを探す仕草をした。

「なんだコレ…」
「記憶の闇」
オレの質問に間髪入れず応えるリア。
「何それ」
「失った過去を探そうと彷徨い続けた魂の成れの果てよ」
「魂…って。え!全く原形とどめてないけどっ…」

普通どんなに記憶を失ってもそれなりの姿をしているはず。
ここまで酷い状態の魂はまだ見たことがない。
言っちゃ悪いがまるでモンスターだ…

「もしかしてさっき迷い込んだ客ってこの子?」
「みたいね」
「じゃあこの子もオルゴールを求めて…」
「それは分からないけど何かを探し求めてここに辿り着いた事は確かよ」
「この子は生きてる?」
「たぶん記憶だけが暴走してる。きっと魂は記憶に喰われて生きてはないわ」
「……じゃあ、どうしたらいいんだ?」
「ここまで我を失ってるんだから殺すしかないでしょ」
「でも魂だよ?」
「そんなこと言ったって他に方法がないもの」
「いや…でも…」

神でも何でもないオレ達が魂をどうこうするなんて…
さすがにそれは禁忌だと思うんだけど。

あ~…今ここにアークさんが居てくれたら、きっと彼女を傷つけることなくあっという間に解決してくれるんだろうけど…
でも無いモノを欲しても仕方のないことだ。
1時間前に散歩に出かけたアークさんはあと2,3ヶ月は帰ってこない。
「……殺るしかないか」
そう言ってアークさんのお土産…どこぞの世界で買ってきた一本の剣を取りにカウンターの裏へ回ろうとした。
『―――何…処』
「え?」
女性の声?
『……私 の…』
「ちょ…リア!彼女まだ生きてる!」
「厄介ね~」
だるそうにリアはグチを垂れる。
「なぁ何とか助けてあげられないか?」
「う~ん…そうね。上手くいくかは分からないけど…
 意識があるなら探し物を見つけてあげれば正気に戻ると思うわよ」
「……探し物か」

オレはカウンターに行くのを辞め少し間合いをとりながら静かに彼女に近づく。
「君は何を探して…」
ザワッ…
闇が騒ぐ。
『音…何処…私の…』
「キョウ攻撃くるよ!」
黒い霧のような手が迷いもなくオレの身体を目掛けて飛んできた。
リアの忠告とほぼ同時に身体が動いたので当たることはない。
『ぅう…ない…ない…音が…』
探してるのは音…?
ここに彼女のオルゴールが在ればなんとかできるんだろうけど…って
「あっ…」
オレは再びリアの居る小さいドアの方を見て一気にそのドアへと走りだした。
彼女の影を帯びた真っ黒な手がオレを追うように幾つも飛んでくるがどれもわずかに足りず当たらない。

最後の攻撃をギリギリ前転で交わし少し入り込んだ小さなドアの前。
山積みにされた壊れたオルゴールの山をガラガラと掻き分け探す。
「何?どうしたの?」
「たしかこの辺に……と……あった!」
リアの疑問に応える前にオレは一つのオルゴールを取り出し服の袖で軽く埃を払った。
「たぶんコレだ…」

オルゴールは持ち主の記憶を音に変え取り込むことで曲(軌跡)を創り続けている。
当然、持ち主がここで記憶のやり取りを行わない限りその曲が変化することはない。
しかしこれは1音だけが死んだ…異端のオルゴール。
「おかしいと思ったんだ…誰も取りに来てないのに音がなくなっているから…」
「で、それをどうするの?音なんてそう簡単に探せるもんじゃないわよ?」
「わかってる。それを今見つけるんだよ」
「???」

オレは山積みになっている壊れたオルゴールをまたぎながら探し出したオルゴールを眺めもう一度シャツの袖で優しく磨いてあげた。
それは片手にスッポリ収まる黄色いオルゴール。
滑らかなカーブに光があたるとオレンジや黄緑色の光沢がでる。
とても綺麗なオルゴールだ。

オレは彼女の前まで行き静かにそのオルゴールのフタを開けた。


~♪♪~♪♪~♪…
『…音…懐かし…い…』


思い出してほしい。
怖がらずにその記憶を…
音は必ず君の中に在るはずだから。

『…ぃゃ、やめて…聴きたく…ない…』
「聴かなきゃだめだ。これは君の大事な記憶なんだろう?」
『…ごめんなさい。ごめんなさい』
大事な記憶と、思い出したくない記憶が一緒の音に記憶されたのだろうか。
それをどうすることも出来ないまま自分の中に封印してそれを見失って…
「!!」
あ、音が戻った!
いつもここで1音跳ぶんだけど…
オレがそれに気づくと同時に彼女の姿は綺麗なエルフに姿を変えた。
スラッとした黄色のレースワンピースに白い帯を巻いたサンダル、長い髪をサラリとなびかせサイドからは長い耳がピンと立つ。左手にはギュッと握りしめた小さな赤い羽根。

この姿は以前にも会ったことがある。
「君は確か…パークスフィアのエルフ?」
「はいシャロンスティアといいます」
俯きながら彼女は静かにお辞儀をしオレを少し見てまた俯いた。
「どうして記憶を失っていたんです?」
「それは……」
俯いてた顔が更に下へと影を落とし彼女は少し言い辛そうに静かに話し始めた。
「パークスフィアを救うための大切な呪文を友人の死と引き換えに伝授されたので…たぶんその記憶が辛くて無意識に封印してしまったようです…すみません。ご迷惑をお掛けしてしまって…」
「そうだったんですか。でもその記憶は今あなたの中にあるけど大丈夫なのか?」
「…ええ、何とか。これでアクソディの手からパークスフィアを救う事も出来ます…」
「無理しないようにね」
「はい、ありがとうございます。今は勇者さまもいらっしゃいますし…この呪文さえあればきっと」
「世界が変わったらまた記憶を刻みにおいで。今度は幸せを歩むために」
「そうですね。是非」

そう言って彼女は目に涙を浮かべながら優しい笑顔をオレに向け手に持っていた赤い羽根を差し出した。
「…ぇ?」
「これは白翼人…友人の羽根です。私のオルゴールにしまっておいてくれませんか?」
彼女の大切な友人の羽根。
血に染まったその羽根をそっと受け取り静かに承諾した。
「わかりました。大切に保管しておきます」

オレはその羽根をオルゴールに入れ…
静かにフタを閉じる―――――

そして彼女は光を纏いながらパークスフィアに還っていった。





「ほ~んと人 騒 が せ なエルフよね~全く!」
散らかった部屋を片付けながらいつも通りリアのグチに耳を傾ける。
「仕方ないだろ。彼女も苦しかったんだから…」
「うるさい!ご主人様のパウンドケーキ落としといてゴメンの一言もないなんて!!
 絶対許さない!!」
「オレのパウンドケーキ全部食べたんだからそれで許してやれよ」
「黙れ!ソレとコレとは話しは別よ!御主人様のパウンドケーキを落とした恨みは怖いんだから!!今度来たらケッチョンケッチョンにしてやる!!」
「リアのその記憶を封印してやりたいよ…」
「何か言った!」
「ぃゃ何も…」



友人を失った記憶がなければ世界は救えず…
世界を救うために彼女は友人の死を回想する。
それはまるで人柱…
残酷だけどそれが彼女の使命ならば受け入れるしかない。

落ちた二つのパウンドケーキを拾い袋に入れて外へ出る。
「ゴメンな食べてあげられなくて。でも無駄にはしないから」

――――せめて彼女の世界が救われるよう願いを込めて

オレは細かく千切ったパウンドケーキを白いハト達にあげた。

「まるで公園にいるハト好きのおじさんよね~あれ」
「そんなことを言ったら可哀想だよリア」
リアの小さい扉の前に光と共に姿を現すアーク。
「ご主人様も人が悪いったら~居るなら助けてあげれば良かったのに~」
「すまない…お腹を壊しててそれどころじゃなかったんだ…」
「えっ!!だ、大丈夫なのご主人様っ!?お熱はない?お薬はっ…ってきゃあ!」
相当慌てたのか扉の向こうで食器か何かが割れる音がした。
「平気だよ全部出したらスッキリしたし…あ。そろそろ散歩の時間だな」
「えっちょっと!もう行くの~?もう少しお話しようよ~」
片づけをしながらアークの散歩を止めようと頑張るが…
「ダイナが呼んでるから行くよ。いい子にお留守番してるんだよリア」
「は~い(ちっ!ダメか)」
試みは泡と消えた。
アークが手の平を下に向けいつものように唱える。
「光の源に在りし次元の扉よ 我を導き我の道標となれ」
光が陣を描きその光に紛れるようにアークは消えた。

少しだけ開いた扉から風が吹く。
記憶を求めるオルゴールは静かにフタを開け

音と共に次なる記憶の持ち主を呼び始める…

♪♪~…









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☆プロフィール☆
HN:
梅星 悠(ウメボシ ハルカ)
年齢:
42
性別:
非公開
誕生日:
1981/06/26
職業:
絵を描くこと
趣味:
空を見ること
自己紹介:
ウメボシは旅から3時間で連れ戻されただいま原稿中。
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