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~ウメボシ珍道中~
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「迷う心が音を呼ぶ

 真っ暗な心の中に流れるたった一つの音…

 その音だけを頼りに…」


ORGEL「響」part1











「音がきこえる…」


ポンと弾いたかと思えばスーッと流れて消える…
弾むような楽しい気持ちが急に寂しくなるような…そんな儚く切ない音…

「ここは…」

閉じていた目を静かに開ける
そこはヨーロッパ調の白い家と遠くにはレンガ造りの大きな時計塔。
近くの庭にある柵からは隣の家も幾つか見えるがどれも生活感が全くない。
まるで時間が止まったような空間…

ポン…♪
音に気づいて目の前の扉を見上げる。
精巧に彫られた木の扉…


「音がこぼれてる…なんだか懐かしい音色…」


自然とドアノブに手が伸びる。
キィ…

「いらっしゃい」

中にいたのは12~13歳の男の子。
白いカッターに緑のネクタイ、まるで学校の制服のような…
と男の子を見ていた私の視界に数え切れないほどのオルゴールが飛び込んできた。
部屋の壁が見えないほど埋め尽くされたオルゴール部屋。

「ここはオルゴール屋さん?」
「ええ。正確には忘却の部屋ですが…」

圧倒されながらもゆっくりと視線を移動させ色鮮やかなオルゴールに目を奪われる。
よく見るとどれも精巧に作られた宝石箱だ。

「素敵…」

思わず近くの紅いオルゴールに手が伸びる。
開けようとしたがそのオルゴールは開かなかった。
まるで音を封じているかのように頑なに閉じたオルゴール。

「さっきの音はどのオルゴールだったんだろう」

全てのオルゴールが閉じたままなのでこの部屋に音はない。

「貴方を呼んだオルゴールはこれですよ」

そう言って彼は一つのオルゴールを取り出した。
金縁に淡いオレンジのガラス細工でできた綺麗なオルゴール。
大きさは丁度両手にスッポリ収まるほど。

私はそれを手に取りゆっくりと開けた。


…~♪~♪


「そう、この音色…とても懐かしい…」

目を閉じこぼれる音だけを拾う
踊るように弾く…そして緩やかに流れる…
不思議な音…

これを聴いていたらきっと嫌なことも全部忘れられる


「貴方の忘れたい過去はなんですか?」
「忘れたい過去…うーん。演劇…かな?」
「宜しければ理由をお聞かせください」

閉じていた目をほんの少し開け昔の自分を話し始める。

「…私は演劇が好きで小さい頃からずっと演技ばかりをやっていた…毎日楽しくて演劇に没頭して…でも…その演技で人を騙すことを覚えて…酷いことを言ったりウソを言ったり…沢山の人を傷つけたり…」
「後悔してるんですね」
「ええ…演劇がなければ私は彼を傷つける事も友達を失うこともなかった…だから演劇の事を全部忘れてもう一度やり直せたらって…」
「新しい自分を手に入れるため…ですか」
「……そう…」
「分かりました。貴方の記憶を引き取らせていただきます」
「………」


彼は静かにそっと目を閉じた


瞬間…オルゴールから零れていた音が私の中に流れ込む


記憶を…もぎ取っては消え、少しずつ空白が広がりそれは時間と共にハッキリと…


消えていく


苦しかった過去も楽しかった思い出も



演劇にのめり込んだ自分も



全て…



痛みはない…




ただ…寂しさがジワリジワリと…こみ上げて




「さぁそのオルゴールを閉じて…」



言われるまま ゆっくりと手の中のオルゴールを閉じる。



パタン











閉じていた目を開ける

「あれ?私…何しようとしてたんだっけ?」

台所で冷蔵庫を開けたまま呟いた。
「なに?ド忘れ?」と後ろにいた母が笑う。

「…うーん何か大事なことを忘れてるような…」
「大事なこと?」
「う~…だめだ思い出せない」
「思い出せないなら大したことじゃないんじゃない?」
「そっか。じゃあ気にする事もないか!」

でも、なんでだろう…
胸にポッカリ大きな穴があるような…

あれは…ウソ…?演技?

あ、そうか私よくこれで友達を傷つけてたんだっけ。
もう二度とやらないと誓った昔の記憶…
すっかり忘れてた











「ねぇ…どうして残したの?」

オルゴール部屋にある奥へと繋がる小さな扉から少女の声がする。

「あの人は全部忘れたいと言ったのに感情を残してあげるなんて」
「感情を奪えばせっかくの反省が消えてしまう。それでは意味がないだろ?」
「またそんな事を言って。このままじゃオルゴールの記憶はいつまで経っても集まらないわよ?」
「それでも更正を望む彼女には必要な感情だ。オレには奪えない」
「ホントに甘いわねぇ」
「何とでも言えばいいさ」


オレには彼女が演劇を忘れたいようには見えなかった…
忘れる以外に方法が見つからなかっただけで本当は続けていたかったんじゃないだろうか…

「って今更思ってもしょうがないけど」

漆黒のオルゴールを聴きながら淹れたての紅茶をすする。

「あっチィ!!」ガチャン
扉の向こうからクスクスという微かな笑い声が聞こえる。
「☆×△□○~…???」

あれ?オレ猫舌??
記憶が全くないはずのオレにも何故か猫舌の記憶は残っていたようだ。








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☆プロフィール☆
HN:
梅星 悠(ウメボシ ハルカ)
年齢:
43
性別:
非公開
誕生日:
1981/06/26
職業:
絵を描くこと
趣味:
空を見ること
自己紹介:
ウメボシは旅から3時間で連れ戻されただいま原稿中。
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